
手つき
今年度から母校・神奈川大学で将棋の授業を担当しています。前期は白楽キャンパス、そして後期は9月からみなとみらいキャンパスへ。場所が変われば空気も変わるもので、みなとみらいは2021年にできたばかりのピカピカの新天地。初めて足を運びましたが、もう入口からして「本当にここ大学?」と疑いたくなるほど綺麗でおしゃれ。窓の向こうに高層ビルがキラキラ、エレベーターはサクサク、そしてカフェは映え。白楽ももちろん好きですが、みなとみらいは「将棋の駒を指す音も、ちょっと上等に聞こえるのでは?」と思わせる景色の良さです。
前期との違いでまず驚いたのは、女子学生がぐっと増えたこと。理由を聞くと、みなとみらいは文系、とくに語学系が中心とのこと。白楽では理系が多く、男女比は体感5対1くらいだったのに、こちらはほぼ1対1。教室の雰囲気もどことなく柔らかくなりました。将棋のルールを知らない学生がほとんどで、こちらとしては教えがい満点で、毎回「おお、こういう視点もあるのか」と新鮮な気持ちです。
授業ではプロの対局のビデオも見せました。授業終わりに提出の感想シートに「私も〇〇がやってみたい!」と書いてあって、「どれ?」と期待して読み進めると——答えは「手つき」。そう、プロが駒を指すときのあのシャッ、パチッという音と手の滑らかな動き。「あれ、私もやってみたいです!」という声に、思わず「わかる、形は大事だよね」と頷いてしまいました。
そこで「それは良いね、やってみよう」と実演。が、ここで現実が顔を出す。将棋の手つきは見た目以上にムズカしい。俗に「手つきが綺麗なら実力アマ初段以上」とも言われるほどで相当な経験が必要です。角度、速度、指の置き方、そして駒が盤に触れる音量の調整まで、まるで小さな舞台演技。私も映画の撮影で役者さんに手ほどきしたことがありますが、マスターするまでには本当に根気がいる。ある役者さんは駒を持ち歩きどこでもパチパチやって手つきの練習をしていました。
とはいえ、みんなが一生懸命に練習してくれる姿は微笑ましく、盤上がちょっとした「所作の稽古場」と化すのを見て、「よしよし」と内心で拍手。
ただ、問題が一つ。爪が異様に長いケースです。これがなかなかの難敵で、美しい手つきの再現は一旦あきらめることにしました。その代わり、指の腹でしっかりつまんで指してもらう方法を採用。少し悔しい気持ちもありましたが、安全第一、そして駒への優しさを優先した結果です。所作も大事ですが、まずは気持ちよく指してもらうことが一番。長い爪の場合については、次の課題として取っておくことにしました。
そんなこんなで、後期のみなとみらいでの将棋クラスは、今日も賑やかに進行中。盤の上では戦略が学べ、盤の外では所作が磨かれ、教室の空気はどこか凛として柔らかく感じています。
将棋の面白さは、勝ち負けだけでなく、駒を置く一手の美しさ、音の心地よさ、所作の品の良さに宿る——そんなことを、みんなで少しずつ共有できているのが嬉しい。さて、今日もパチッと一手。みなとみらいの空に、いい音が響きますように。


詰将棋 前回の問題と回答
最後に詰将棋を出題します。まず前回詰将棋の回答です。
【前回の問題】

【回答】
▲8四桂△同歩▲6一角△8二玉▲8三金△7一玉▲7二金まで7手詰

【解説】
単に▲6一角は△8二玉で詰みません。▲8四桂が▲8三金を可能にする急所の一手になります。▲8四桂に△8二玉は▲7一角で詰むのを確認してください。
詰将棋
実戦形7手詰です。ヒント「連続捨て駒でいってみましょう」
