
久々の囲碁大会と、一瞬見えた幻
酒の席のノリほど恐ろしいものはありません。 先日、ひょんなことから、超久しぶりに囲碁の団体戦に出場することになりました。
きっかけは、囲碁関係者の方との飲み会です。「今度、囲碁の団体戦に出てみない?」と声をかけられ、たまたま予定が空いていた私は、「任せてください!」と威勢よく安請け合いしてしまいました。
……が、翌朝、目を覚ました瞬間に冷や汗が噴き出しました。 実は私、昔から囲碁は好きで、囲碁界の先生方とも親交があり、日頃からプロの対局を追いかけてはいます。しかし、よくよく考えるまでもなく、ここ最近の私は自分自身で囲碁をほとんど打っていません。まじめな話、囲碁関係者と会っても、盤を挟むよりお酒を酌み交わすほうが圧倒的に多い状態でした。とても「大会に出る」などと言えるレベルではなかったのです。
チームのメンバーは「勝敗は気にせず、楽しんでくれれば大丈夫!」と優しく声をかけてくれます。 とはいえ、こちらも一応は勝負の世界で生きる身。あまりにだらしない負け方をするのは、棋士として名に恥じる……と、無駄にプライドが邪魔をします。
「やっぱり出るのをやめようかな……」 そんな考えも頭をよぎりましたが、一度引き受けたことを引っ込めるのも気が引けます。 焦った私は急きょ、数年ぶりに囲碁道場へ駆け込みました。まさに怒涛の“付け焼き刃”です。道場の先生から“はめ手”っぽい定石をひとつだけ教わり、ひたすらそれを反復練習しました。たったひとつの必殺技(?)ではありますが、手ぶらで戦場に乗り込むよりはましでしょう。
そのとき、ふと自分の将棋教室での出来事を思い出しました。 以前、初めて将棋大会に出る生徒さんから、「先生、ラク〜に勝てる戦法ってないですか?」と聞かれたことがあります。私はそのとき、「そんな都合のいいものがあれば、僕が真っ先に使ってますよ(笑)」などと、ドヤ顔で答えていました。
……あのときの生徒さん、本当にすみませんでした。 今なら分かります。あの切実な気持ちが、痛いほど分かります。追い詰められた人間は、誰しも「楽に勝てる裏技」を探してしまうものなのですね。
そして迎えた大会当日。 私は「2級」枠で出場することになりました。他のメンバーはみな頼もしい有段者ばかりで、完全に“おんぶにだっこ”の心強い布陣です。試合は4回戦あり、私はそのうち3局を打つことになっていました。
「なんとか全敗だけは避けたい。1勝できれば御の字……」 そんな祈るような気持ちで臨んだのですが、なんと、まさかまさかの望外の2連勝。 この瞬間、頭の中では盛大にファンファーレが鳴り響きました。 「……あれ? もしかして俺、目指す業界を間違えた?」 ――と、盛大に調子に乗りかけた、そのときです。
続く3局目で、見事にコテンパンの完敗。 手も足も出ずに崩れ去りながら、「……うん、やっぱり自分は将棋でよかった(笑)」と、一瞬で冷酷な現実に引き戻されました。
ともあれ、最終的な個人成績は2勝1敗。 一日の出来としては、上出来すぎる結果です。チームも3勝1敗と勝ち越し、「よしよし!」と大満足で大会を終えることができました。打ち上げも楽しく、よい一日になりました。ちなみに、道場で習った定石の形には一度もなりませんでした。そんなうまい話はありませんよね。
昔から好きだった囲碁ですが、やはり「観る」のと「自分で打つ」のとでは大違い。それでも、本業の将棋ではもう味わえない、この純粋で、どこかワクワクする「大会の楽しさ」を、久しぶりに思い出すことができました。 チャレンジには緊張もありますが、終わってみれば「やってよかった」と思える、そんな当たり前のことを、改めて実感した一日でもありました。
……さて、来年はどうしようかな。 とりあえず、次に出るときは、もう少し囲碁を勉強してからにします(笑)。

試合会場の市ヶ谷・日本棋院

左より囲碁棋士の林漢傑八段、安田明夏初段、私、鶴山淳志八段
詰将棋 前回の問題と回答
最後に詰将棋を出題します。まず前回詰将棋の回答です。
【前回問題】ヒント「相手の飛車を捨て駒で翻弄してください」

【回答】
▲8四銀△同飛▲7一角△同飛▲9二金まで5手詰

【解説】3手目▲7一角と捨てるのが好手です・以下どう応じても▲9二金までの詰みとなります。二枚の飛車をかいくぐっての詰みでした。
詰将棋
7手詰です。ノーヒントで!
