
ランチ近況
千駄ヶ谷近辺を歩いていて、久しぶりに「ほそじまや」の前を通りました。旧将棋会館の近くにあったお蕎麦屋さんです。私が奨励会員だった頃からありましたから、もう何十年という歴史になるのでしょう。関東所属の棋士で、一度も食べたことがないという方は、いないのではないかと思います。
奨励会時代には、記録係のときの昼食や夕食でよくお世話になりましたし、棋士になってからも、対局時の昼食や夕食で数え切れないほど通いました。対局中の外出が認められていた頃は休憩時間に食べに行き、その後は対局環境の変化に伴って出前をよくお願いしたものです。
このお店には、ひとつ忘れられない思い出があります。奨励会時代、記録係の夕食休憩で何人かと店に入ったところ、ある先生が食事をされていました。軽くご挨拶だけして、私たちもいつものように食事を済ませたのですが、いざ会計の段になって「もういただいております」と言われたのです。さりげない優しさに感激したことを、今でもよく覚えています。あの頃は本当にお金もありませんでしたから、なおさら身にしみました。
棋士になってからは、自分もいつか同じようなことを奨励会の子にしてあげたいと思っているのですが、いざとなるとなかなかスマートにできません。「次こそは」と思っているうちに、いつしか出前中心の時代になってしまいました。
……と、思い出話が少し長くなってしまいました。本題はランチの話です。
理事になってから、平日は将棋会館に通うようになりました。そうなると当然、昼食をどこで食べるかという問題が出てきます。対局日であれば館内で食事を取ることになりますが、理事の仕事の日は外へ食べに行くことができます。
なお、いまでは対局中の外出は認められていません。AIの進歩によって対局環境も大きく変わり、不正防止の観点から休憩時間を含めて外に出ることができなくなりました。ですから私にとって、こうして会館の外で昼食を取るのは、ある意味では久しぶりの楽しみでもあるのです。
そして、まず驚いたのは値段でした。いまや千円超えは当たり前。物価高の影響もあるのでしょうが、もともとこのあたりはそれほど安い土地柄でもありません。対局はせいぜい週に一度くらいですから、そのときは値段もそれほど気にしませんが、これが毎日となるとやはり気になります。
それでも、食べることは日々の大きな楽しみです。今日はどこへ行こうかと考える時間も、なかなか悪くありません。同僚の理事と一緒に出かけて、あれこれ巡るのも楽しみのひとつです。
そんななか、最近お気に入りのお店を見つけました。サラダバイキングのある中華料理店です。しっかり食べ応えがあり、それでいて値段も比較的手頃。将棋会館からは少し歩くのですが、おいしいもののためならそのくらいは苦になりません。
実はこのお店、関西所属の理事であるI棋士に教えてもらいました。非常に多忙な方なのに将棋も強く、いったいいつ研究をしているのだろうと思うのですが、スイーツにも詳しく、さらには東京のランチ事情にまで精通しているのですから驚きます。将棋の研究だけでも大変なはずなのに、甘味と昼食の研究まで怠らないのですから、その探究心には頭が下がります。もはや研究対象が盤上にとどまっていないのかもしれません。
この店はいつも行列なのですが、何度か通ううちに比較的空く時間帯もわかってきました。行くときは朝食を抜いて気合を入れています。いちど、席に案内される直前になって財布を忘れたことに気づき、泣く泣く断念したときはつらかったです。
明日はどこへ行こうか。そんなことを考える時間も、今ではひとつの楽しみになりました。食事の時間そのものは束の間でも、その店にまつわる記憶は案外いつまでも心に残るものです。ほそじまやの思い出も、最近見つけたお気に入りの店のことも、きっとそうして積み重なっていくのでしょう。
ただ、次に気をつけるべきことはひとつあります。空いている時間を見極めることでも、朝食を抜いて万全の態勢を整えることでもありません。まずは財布を忘れずに持っていくことです。

詰将棋 前回の問題と回答
最後に詰将棋を出題します。まず前回詰将棋の回答です。
【前回の問題】

【回答】
▲2二銀△4二玉▲5三金△5一玉▲6三桂△4一玉▲4二金まで7手詰

【解説】
初手▲2二銀に対して△同玉では、▲3四桂から▲2二金までの5手詰。 そこで2手目は、少しでも長く抵抗する△4二玉が正解となります。 以下、▲5三金で玉を下段に落としていき、最後は頭金で締めくくります。
詰将棋
5手詰です。初手、3手目と捨て駒となります。
