
指し分け
12月初旬、鹿児島県の指宿に行ってまいりました。実はこれが初めての鹿児島訪問だったので、仕事とはいえ内心かなりワクワクしていました。今回は、藤井聡太永世竜王のお祝い会に理事として同行するというお仕事です。タイトル戦への同行には慣れているものの、「お祝い会」への参加は初めての経験でした。
宿泊先は「白水館」。数多くのタイトル戦が開催されてきた、いわば将棋の“聖地”です。指宿は「いぶすき」と読むのですが、こちらを訪れた将棋ファンの中には、あえて「さすやど」と呼ぶ人もいるそうです(将棋を指す、の「指す」ですね)。料理にお酒、そして錦江湾を一望できる温泉も素晴らしく、心ゆくまで堪能しました。心身ともにゆるりとほどけていくようで、「ここにはまた絶対に戻ってきたい」と強く思わせてくれる宿でした。
お祝い会では、藤井竜王と一緒に竜王防衛を決めた一局の大盤解説を務めさせていただきました。対局のときの藤井竜王は、どこか近寄りがたいほど凛とした雰囲気を纏っていますが、この日はお祝いムードもあってか、いつも以上に温和で和やかなご様子でした。夜には、白水館名物の砂蒸し風呂へ。藤井竜王とご一緒させていただき、いい汗をかきましたが、「我慢比べ」では完敗でした(笑)。
今回、特に印象に残っているのが、藤井竜王とともに訪れた地元の小学校での出来事です。小学生たちは目をキラキラさせながら、次々と質問を投げかけてきます。その中の一人が、こんな質問をしました。
「藤井さんは、今まで何回将棋に勝ったのですか?」
これは、なかなか答えに困る質問です。藤井竜王ともなれば、公式戦だけでなく、記録に残らない将棋まで含めれば、その勝ちっぷりはすさまじいはずです。どんな答えが返ってくるのかと興味津々で見守っていたところ、藤井竜王の返答は、
「だいたい指し分けぐらいですかね」
さすがとしか言いようがありません。普通なら「そうですね、9割は勝っているかもしれません」と、少し自慢げになってもおかしくない場面です。それをさらりと「指し分け」と言い切る。その自然体の謙虚さに、超一流たる所以を見た気がしました。
それにしても、「指し分け」という表現は、本当に味わい深い言葉だと思います。単なる勝敗の数え方を超えた、将棋観そのものを表しているのかもしれません。どれだけ勝っても、常に自分の課題や反省点を見つめているからこそ、「勝ち負けではなく、指し分けくらい」と言えるのではないでしょうか。将棋というゲームの奥深さと、藤井竜王の人間としての深みが、あのひと言に凝縮されているように感じました。
将棋界の第一人者である藤井竜王と、こうして間近で触れ合うことで、その言葉や所作、人柄に改めて強い感銘を受けました。錦江湾の美しさ、堂々たる桜島の姿、そして指宿・白水館で過ごした時間――。藤井竜王の「だいたい指し分け」という言葉を思い出すたびに、今回の指宿の旅は、きっと一生忘れられないものになるのだろうと感じています。
※上記の模様は読売新聞に記事として掲載されていますので、よろしければご覧ください。


詰将棋 前回の問題と回答
最後に詰将棋を出題します。まず前回詰将棋の回答です。
【前回の問題】

【回答】
▲7一角△同玉▲7二金△同玉▲5二飛△7一玉▲6二飛成まで7手詰

【解説】
△9三玉を許さない▲7一角が急所です。2手目△9二玉は▲7二飛まで。「大ゴマは離して打て」の▲5二飛が決め手になります。
詰将棋
9手詰です。ノーヒントです!
