
二刀流
今年6月から始まった理事生活も、気が付けばもうすぐ5か月が経過しようとしています。ここらで少し振り返ってみたいと思います。まず、はじめの一か月。これがもう、とにかく疲れました。いや、毎日遅くまで働いていたわけではないんですよ。しかし、新しい業務を覚えながら、20年ぶりの勤務生活に体がついていかないという現実…。帰宅するともう何もする気が起きず、すぐ寝るかお酒を飲んで寝るか、そんな毎日でした。本来なら将棋の勉強もしておくべきところなんですけどね。
前回まで「プロとは何ぞや」的な偉そうなことを書いた記憶がありますが、実際は疲れすぎて将棋どころではありませんでした。毎日のように将棋会館には足を運びながらも、ほぼ将棋に触れない日々という矛盾。そして、その矛盾に気づく余裕すらないほどバタバタした一か月でした。
そんな状態で迎えた公式戦。さて、結果はどうなったでしょうか。見事に全敗、しかも内容も散々。まあ、それも当然ですよね。何もやっていないんだから。「結果って本当に正直だな…」と思い知らされました。負けるたびに「自分は何をしていたんだろう」と情けなくなる一方で、やっぱり悔しい。これがまたどうしようもない。
プロ生活20年、ほぼ欠かさず続けてきたことがあります。それが「毎日の詰将棋」です。短い時で30分ほど、長い時はもっと。その詰将棋を、トレーニングという感覚もなく、自然と日課としてこなしてきました。しかし、それが突然途絶えるとどうなるか?すべての手に自信が持てなくなるんです(笑)。「毎日のわずかな積み重ねって、こんなにも大事なんだな…」と身をもって痛感しました。
そうはいっても、理事としての生活は新鮮で刺激的なものです。これまでとは異なる視点で将棋界を見つめ、考える機会を得られるという意味では、とても貴重な経験をしています。ただ、将棋の世界に生きる者として痛感するのは、やはり本業の腕を磨き続けることの重要性です。疲れたからといって怠けると、そのツケがしっかり回ってくる。二か月目からは少なくとも詰将棋だけはやるように心がけまして、少しずつ自分のペースを取り戻しているつもりです。
理事と棋士の二刀流と聞こえはいいですが、実際やってみるとこれが楽じゃない。大谷翔平選手の偉大さを改めて感じる日々です(いや、それとはだいぶ違うかもしれませんが…)。それでも、将棋界に貢献しながら自分も成長するというこの機会を、全力で楽しみたいと思っています。
これからも続くであろう奮闘を前向きに受け止めながら、理事としても棋士としても、少しずつ自分らしさを取り戻していきたいと思います。さて、今日も詰将棋から始めますかね。
将棋タイトル戦の聖地ともいえる旅館「陣屋」にて

陣屋内の展示。肖像画は升田幸三実力制第四代名人

詰将棋 前回の問題と回答
最後に詰将棋を出題します。まず前回詰将棋の回答です。
【前回の問題】
<ヒント>実戦形7手詰めです。ヒント「相手玉の脱出ルートを無くす」

【回答】
▲8四桂△同歩▲8二金△9三玉▲7二金△8三玉▲8二角成まで7手詰め

【解説】
▲8四桂が逃げ道を消す急所の一手になります。終盤でよく見かける筋のひとつです。
詰将棋
実戦形7手詰めです。ヒント「前問を参考にしてください」
